吉岡徳仁「ガラスの茶室- 光庵」新しき非日常の美しさ
Last Updated on 2020年7月12日 by Chippy
吉岡徳仁さんのことは2017年に「スペクトル」という展示で知り、すごいな…と印象に残っていました。
「ガラスの茶室」が佐賀県立美術館にくるというので、見に行った時の感想です。
※佐賀県立美術館での展示期間は、2018年11月28日~ 2019年2月11日でしたので、今は終わっています。
ちなみに佐賀県立美術館は、「ロマンシング佐賀展&キングダム展」以来でした
一番好きなサガは「ロマンシングサガ・ミンストレルソング」で、イトケンこと、伊藤賢治さんの楽曲も大好きです。
目次
吉岡徳仁氏について
デザイン、建築、現代美術の領域において活動し、自然をテーマにした詩的な作品には、日本の美の根源が映し出されている。光などの非物質的な要素を形象化した作品は、形という概念を超え、人間の感覚を超越するような、独自の表現を生み出している。
(中略)
作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やポンピドゥーセンター、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。
出典元:TOKUJIN YOSHIOKA+TYD・公式ホームページ
「ガラスの茶室 - 光庵」について
「ガラスの茶室 - 光庵」は、 2011年に 第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展にて発表。 2015年には、京都の天台宗・青蓮院門跡境内、将軍塚青龍殿の舞台にて、初めて披露されています。 |
「ガラスの茶室 - 光庵」を見た感想
恥ずかしながら、私はガラスの茶室を見て…あまり言葉が出てこなかったんですね。「えっ?あぁ…」という感じで、気持ちのいいガラスのベンチに座って、眺めて、落ち着かなくて立ち上がって、一周回ってまた座る…。
挙動不審ですね(笑)。
美しいものを見た時に、「美しい」じゃなくて、それがどんな風に美しいのか?を自分の言葉で表現する癖をつけると、語彙力が増えるよ。 |
と昔言われたことがあるのですが、私の語彙力は、この茶室の前ではかたなしでした…。
クールでスタイリッシュな造形に、気後れしてしまったんです
新しい茶室の概念に、自分の言葉が全然追いついていかない。あまりにも隙がなく無駄のない、削ぎ落とされた透明感でした。
知識があると理解できる世界がある
芸術作品は、その世界の背景や成り立ちを知っていると(今回ならたとえば、茶道や茶室の世界観)少し距離が近づいて、やっと見えてくる顔のようなものがあります。
それは、作品から働きかけてくれる受動的なインスピレーションではないので、こちらから知りたいと、何かしらの行動を起こさなくてはいけない。
知識がないことで、わからないまま終わってしまうのが勿体ない。と、教養の乏しい私自身は思うわけで…
この茶室をどう捉えるか?と考えた時に、そもそも私は茶室の歴史を知らないので、判断しようがないわけなんですよ!!その無知な状態のまま対峙して、
(…このシンプルな造りは、周りを見渡して、季節を感じられるようになっているから、茶室としては異質な感じだけどアリなのか??)
なんて疑問に思ったりしたんですよね。何にもわかっていない…。
別世界への誘い
茶室には〈にじり口〉という入り口があるのですが、
それから客は低くかがんで 、高さ三尺ぐらいの狭い入り口 〔にじり口 〕からにじってはいる 。この動作は 、身貴きも卑しきも同様にすべての客に負わされる義務であって 、人に謙譲を教え込むためのものであった 。
出典元:岡倉天心(著),村岡 博 (翻訳)「茶の本」〔Kindle版〕
(第四章 茶室)
千利休の創意工夫が素晴らしいですね。茶人は禅の精神を大切にしていたようで、少し調べただけでも茶の湯の世界があまりにも奥深く、私は驚きました。
茶室は簡素にして俗を離れているから真に外界のわずらわしさを遠ざかった聖堂である。
出典元:岡倉天心(著),村岡 博 (翻訳)「茶の本」〔Kindle版〕
(第四章 茶室)
私が茶室という概念をそもそも知らなかったことも大きいのですが、ガラスの茶室-光庵を見た時に、〈聖堂〉という表現はしっくりくるなぁ…。
やわらかな白い光に照らされた美しい茶室は、新しい中にも和の精神が宿る確かな存在感で、見に行って良かったです。
六本木の国立新美術館で特別公開中
国立新美術館について
【特別公開期間】2019年4月17日〜2021年5月10日
【場所】東京・六本木の国立新美術館 入り口
【住所】〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
【開館時間】10時〜18時まで
※会期中の毎週金・土曜日は20時まで(7月〜9月は21時まで)
※入場は閉館の30分前まで。
※展覧会によって、観覧時間が異なる場合があります。
佐賀県立美術館での展示は屋内で、会場内では将軍塚青龍殿の舞台に展示されている映像が流れていました。
季節によって移り変わる景色の中のガラスの茶室が、物凄く格好良かったです!
外の自然光の中でも見てみたいと思いましたが、国立新美術館では陽光で輝く茶室を見ることができますね。
あわせて読みたい
「茶の本」岡倉天心(著),村岡 博 (翻訳)
もっとも 、修養によって美術鑑賞力は増大するものであって 、われわれはこれまでは認められなかった多くの美の表現を味わうことができるようになるものである 。が 、畢竟するところ 、われわれは万有の中に自分の姿を見るに過ぎないのである 。
出典元:岡倉天心(著),村岡 博 (翻訳)「茶の本」〔Kindle版〕
(第五章 芸術鑑賞)
岡倉天心という名前は聞いたことがあったのですが、実際に読んだことはありませんでした。哲学的で、いたるところに名文が散りばめられています。
素晴らしい筆力で、茶の世界における時代背景を感じることができます。豊富な語彙力や比喩表現で、文章の組み立てが美しく、本の中に流れる空気や理想に感動しました。
味わいながら、時間をかけて読むのがオススメです。
「茶の湯 学びのガイドブック」佐藤宗雄(著)
「茶の湯 学びのガイドブック」は茶道に詳しくない私でも、茶の湯のことのみならず、日本的な感覚を思い出させてくれる本です。
日本の伝統文化に興味があるけど(私にとっては神社もそうです)、そこだけじゃなくて、それを包んでいるこころが知りたい時ってありませんか?
やわらかな文章が読みやすく、茶の湯の世界を通して、二十四節気の風景や和のこころを感じます。五感が刺激され、とても心が落ち着いてきます。
「スペクトル」も素晴らしかった
2017年1月13日~3月26日まで、東京の銀座にある資生堂ギャラリーで、「吉岡徳仁 スペクトル プリズムから放たれる虹の光線」というインスタレーションがあったんです。
私が吉岡徳仁さんを知るきっかけとなりました。
この展示でもガラスのベンチがあり、座って、ただ虹の光を感じる贅沢な時間を味わうことができたのです。
プリズムの彫刻によって、祈りみたいな優しい光の光線が降り注いでいて、ずっとここにいられる感じ。私は静かな心地よさと、美しさへの感嘆の気持ちで胸がいっぱいになっていました。
いや、もう、好きだよね…。私は神社によく行くのですが、参拝中に時々感じるあの「ここ、すごく気持ちがいい…」っていう感覚と同種のものですよ。
光の中の神々しさとやさしさ、祈りたくなるような、神聖なものに対する畏怖の気持ち。
空間が虹色の光でキラキラしていて、すごく気持ち良かったです。
この出会いがあったから、ガラスの茶室も見に行きたいと思ったんですよね。
そのおかげで、茶の湯の精神を通じて、知りたいと思っていたことが深められそうで嬉しいです。
おわりに
いつかパリのオルセー美術館で、印象派ギャラリーのガラスのベンチ〈Water block〉に座って作品を鑑賞してみたいです!
休日は、芸術に触れるのはいかがでしょうか?
「茶の本」は時間をかけて、自分の中に落とし込んでいきたいと思います。
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